東京高等裁判所 昭和33年(ネ)1808号 判決 1958年12月24日
控訴人 立花長喜
被控訴人 梅野梅治郎
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金一五万円及びこれに対する昭和三一年二月二九日以降完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決並に仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、控訴人において次に記載の通り述べた外は、原判決の事実摘示の通りであるから、これを引用する。
(一)、原判決の事実摘示における控訴人主張の部分につき、
(1)、その三を「本件約束手形の振出人欄には、前記東洋重機株式会社の住所として、東京都中央区宝町三丁目一番地と記載されており、仮に右の場所で事実上、東洋重機株式会社名義で営業していた者があるとしても、それは被告が同会社の名義で個人として営業をしているだけであつて、右場所に本店を置く東洋重機株式会社という会社は法律上存在しないのであるから、被告が約束手形の振出人欄に取締役社長として記名押印しても無意味であつて、結局被告は実在しない株式会社の振出名義を使用して本件約束手形を個人として事実上振出した者として手形法第七七条第二項、第八条前段の準用により、手形振出人としての義務がある。」と訂正し、
(2)、またその四に「かりに、前記宝町三丁目一番地に本店を置く東洋重機株式会社が存在するとしても、右本店の所在地において」とあるを「本件約束手形面に記載してある場所には」と訂正する。
(二)、乙第五号証はその成立を認める。
理由
当裁判所も控訴人の本訴請求を失当と判断するものであり、その理由とするところも、次に記載のように追加する外は原判決の理由の説示と同様であるから、これを引用する。
要するに、会社も自然人と同様社会に実在するものであり、その実体が同一性を失わない限り同一の会社と認むべきものであつて、原判決もいう通り、会社がその本店を移転しその移転についての登記がせられていないにしても、従前の本店所在地において会社設立の登記がせられている以上、会社が当然にその存立を失うに至ると解すべき理由のないのは勿論、右の場合において商法第一二条の規定により善意の第三者に対抗できないのは、その本店移転のことだけであり、会社の存在自体までこれを対抗し得なくなるものとは到底これを解することはできない。しかも本件にあつては、手形外観解釈の原則からいえば本件手形は東京都中央区宝町三丁目一番地に本店を有する東洋重機株式会社がこれを振出したものと見るのが相当であり、右手形の裏書を受けた控訴人も、特別の事情のない限り、右のような手形としてこれを受取つたものと認めるのが相当であるから、たとえ本件において東洋重機株式会社の本店が右場所に移転したことについての登記がせられていないにしても、控訴人は少くともその本店が右場所に存することを知つていたものと認めるのが相当であるから、この意味においては、控訴人は右本店移転のことについても、必ずしも善意の第三者とはいい得ないものともいうべきである。
いずれにせよ、東洋重機株式会社が存在しないことを前提として、被控訴人に本件手形金の支払を求める控訴人の請求は失当たるを失わないものであり、この控訴人の請求を排斥した原判決は相当である。
よつて本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 薄根正男 村木達夫 山下朝一)